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前橋地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決 1993年4月16日

原告

竹内文藏(X)

右訴訟代理人弁護士

石田吉夫

被告

群馬県知事(Y) 小寺弘之

右指定代理人

井上邦夫

三ツ木信行

金子丈則

岡田博信

金子智

足立哲

石田文雄

安野博

掛川敬二

理由

一  請求原因1(一)及び(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  同2(本件処分の照応の原則違反)について

法五三条一項二号にいう照応の原則とは、土地改良事業の目的に照らして、従前の土地に所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限がある場合でないかぎり、当該換地及び従前の土地についての用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、農業生産力の面において、当該換地が従前の土地に照応していることを要することをいうものであって、同一人が所有する数筆の従前地に対する数筆の換地の指定についての照応関係は、右従前地全体と換地全体とについて、前記の諸条件を総合的に勘案して、当該換地全体がその従前地全体と概ね同一の条件にあれば認められるものと解するのが相当であるところ、原告は、換地の指定を受けた土地のうち二九四番九の土地について、その条件の劣悪さを指摘するのみであって、従前地全体と二九四番九の土地を含む換地全体とを対比して、どのような点において照応関係を欠いているのかを具体的に主張するものではないから、本件処分について照応の原則違反であるとする原告の主張は失当である。

三1  同3冒頭部分(本件処分の公序良俗違反)について

行政処分である換地処分に民法九〇条の公序良俗の法理が適用ないし類推適用されるかについて検討するに、同条の規定は、私人の自由な意思によって形成される法律行為について個人意思の自治を制約するものであるから、その形成及び実現について行政庁の意思の優越性が認められている行政処分に関しては、適用ないし類推適用しえないものと解するのが相当である。しかしながら、すべての法律関係は公序良俗に反してはならないとの同条の理念は、法律秩序全般に通じる法の一般理念と解されるから、行政処分にも妥当するものと解するのが相当である。したがって、当該行政処分が法律の定める手続に則って法律の定める要件の下に行われた場合であっても、当該行政庁の意図する真の目的が人倫に反し、あるいは社会正義に反すると認められる場合には、当該行政処分は公序良俗に反し違法性を帯びるものと解され、この場合に当該行政処分が無効となるか否かは、公序良俗に反することが処分の重大かつ明白な瑕疵といえるか否かによって決せられるものと解するのが相当である。

そこで本件処分に、公序良俗に反する瑕疵が存するか否かについて検討する。

2  同(一)の事実(精算金の額の決定についての違法)について

原告の精算金の額が、当初の三三万〇二三七円から一一万八三二九円となって、最終的に一九万四九〇〇円と変化したことは、当事者間に争いがない(但し、〔証拠略〕を総合すれば、その時期は第一回目が昭和五三年一月、第二回目が昭和五五年一月、最終が昭和六三年七月と認められる。)。また、〔証拠略〕によれば、田村みさ子の精算金の支払額が、三四万四七九九円から四九万八九〇六円、七二万九四一〇円へと見直しの度に増額されたことが認められる。しかしながら、〔証拠略〕も、原告や田村みさ子らの不満を陳述するのみであって、更に進んで、右清算金額の変化が、精算金の額に対する異議の申出を受けた土地改良区の責任者において、「発言力の小さい者やおとなしい者」に対しては不利に、本件換地計画の役員に対しては有利に取り計らうなど、不明確な基準に基づいて土地の評価を変更して調整した結果、恣意的になされたことによるものと認めるに足りる証拠はない。

3  同(二)(評価・評点の違法)について

(一)  同(二)(1)の事実について

二九四番九の土地及び四八〇番の土地の道路点は当事者間に争いがない。しかしながら、右各土地と道路との段差の状況が原告の指摘どおりであることを認めるに足りる証拠はなく、ひいては、右道路点に誤りを認めることができない。

(二)  同(2)の事実について

本件換地処分における従前地の評価が杜撰ないし恣意的にされたことを認めるべき証拠はない。〔証拠略〕によれば、原告らから従前地を対象とする土地評価の見直しを要求されたことから、被告は、右異議を何とか円満・公平に解決するための努力として、調査特別委員会を設置するなどして評価の見直しを実施したものであって、評価がいい加減にされたために行われたものではないことが認められる。本件換地処分が、畑については面工事をしなかったこと及び従前の道路は区画の工事によって換地前の状況を失ったことが認められることに照らすと、従前地の道路点以外の土性等の要因の評価及び右見直しは、かなり正確かつ容易にできたことが窺われる。また、証人鈴木千明の証言によれば、道路点の修正については、換地後にされた従前地の道路点に対する異議に対して、既に換地前の道路の状況が失われていて十分な説得をできなかったことから、群馬県の指導を受けて、一本の道路については、仮にその一部に幅員の広狭があったとしてもそれが極端なものでないかぎり、現実の広狭にかかわらず統一した点数を付設するように評価方法を変えたことによるものであることが認められ、このことに照らすと、確かに換地前の道路等の検分等の評価方針・過程に不適切さが存したことを否定できなくはないものの、右評価方法の修正は、右異議を公平に解決するための方法として相当なものであったと認めることができる。

また、一四五七番の土地の評価のうち、土性、傾斜、日照、かんがい排水、通作距離及び道路の六項目に訂正があることは当事者間に争いがないが、右訂正が、従前地の評価が杜撰ないし恣意的にされたことを認めるべき証拠はなく、かえって、成立に争いのない甲第七号証の一の記載及び弁論の全趣旨によれば、右土性ないし通作距離の五項目の訂正は、当初の評価作業時に従前地台帳上その左欄の土地(同市白石字猿田一四五六番の土地)の評価を誤って記入したのを訂正したことによるものであることが認められる。道路点の修正についても、前認定の評価方法に基づき修正されたものであって、相当なものであると認められる。

(三)  同(3)の事実について

各土地に付設された評点数は当事者間に争いがない。しかしながら、一〇六一番三及び五八六番二の各土地の評点数の誤りを認めるに足りる証拠はなく、かえって〔証拠略〕によれば、一〇六一番三の土地は、その東側を流れる河川の改修をしたことによって、耕土が極端に浅く、礫土でそのままの状態ではとても耕作できない状態となったが、工事完了後のため追加工事をするといった対応もできなかったため、実施、換地及び評価の三委員会合同による役員会を開催して総合点の見直しを行って、総合点六五点から特別に二八点を減点して三七点と評価されたものであること、五八六番二の土地は、一度調整池用地として掘削した後、調整池が北隣へ変更となって埋め戻したことから、田植え機や人が入れない底無し沼のような状態になったため、右同様に特殊地として総合点の見直しを行って、総合点から二〇点を特別に減点して三九点と評価されたものであることが認められ、右各土地の総合点の評価に問題はない。

また、一五〇八番の土地の総合点が特殊地として三〇点台になることを認めるべき証拠はない。

(四)  同(4)の事実について

土性点の評価の仕方及び一〇九二番の土地等についての本件各台帳における各評点数の記載は当事者間に争いがない。しかしながら、〔証拠略〕によれば、工事後台帳上、土性及び耕土の深浅の各評点を一括して「土性」欄に六点と記載したことが認められ、この点の評価に問題はない。

(五)  同(5)の事実について

換地後の一三五一番二の土地等の道路点が一八点と評価され、ほぼ同所に存在する換地前の一三五一番の土地等の道路点が一七点と評価されていること、道路位置の変更がなかったことは当事者間に争いがない。しかしながら、道路の状態が変わっていないことを認めるべき証拠はなく、ひいては、右換地後の道路点評価の誤りを認めることができない。

(六)  同(6)の事実について

七九七番二の土地の広狭点は当事者間に争いがない。しかしながら〔証拠略〕によれば、広狭については、団地(団地とは、農作業が中断されないで継続できる農地の集まりであって、畦畔で接続している場合、小幅員の農道又は水路で接続している場合及び耕作者の宅地を挟んで接続している場合をいう。)として評価することとされているところ、七九七番二の土地に対応する同所の従前地は計五筆三六六五平方メートルを一団地として評価されていたこと、換地後、七九七番二の土地は、同一所有者に帰属する同市白石仮地七九八番一(換地後一三九番)、七九八番二(換地後一四八番)及び八〇七番一(換地後一五二番一及び二)の各土地に隣接しているため、これらと併せて四筆で三六二九平方メートルの一団地として評価されて一五点が付設されたものであることが認められ、この点の評価に問題はない。

(七)  同(7)の事実について

九七九番の土地等の形状点が変更されたことは当事者間に争いがない。しかしながら、〔証拠略〕によれば、右変更は、右各土地について二つの団地単位による評価をすべきところを一筆単位による評価としていたことを訂正したために生じたこと、この訂正の記載が、工事後台帳が筆単位に記載されている台帳であることもあって、あたかも換地後の土地形状が変わったかのごとく誤読されたものと認められ、この点の評価も問題がない。

(八)  同(8)の事実について

一〇八二番四の土地について工事後台帳に訂正のあることは当事者間に争いがない。しかしながら、同土地の総合点の誤り及び評価の恣意性を認めるべき証拠はない。かえって、前期認定の事実に加え、〔証拠略〕によれば、一〇八二番四の土地は、田として工事を行った土地であるが、従前地の一部に畑が含まれており、その土地を深く切土したことから、小石層が露出して田としては耕作できない状態となったため、特殊地として特別に減点することとし、その減点に当たっては、田一三八七平方メートルのうち、耕作のできない部分の占める割合が約五パーセントと少ないため、二点の減点とし、「通路」欄の下に記入したもので、また、訂正についても、田に傾斜点についての減点が出てくるはずがなく、広狭点にあっても、面積から当然六点になるべきものであって、これらは、当初の評価作業時における明らかな評価間違いを修正したものに過ぎず、見直しによる評点変更は、道路点の一項目のみであること、道路点の見直しも前期認定の方法にしたがってされた相当なものであることが認められ、右訂正及び総合点の評価は問題がない。

(九)  同(9)の事実について

一一一七番一の土地の道路点が、本件換地処分の前後で一六点から二〇点に変動したことは、当事者間に争いがない。しかしながら、一一一七番一の土地の東側道路が換地後なくなったことを認めるべき証拠はなく、かえって、〔証拠略〕によれば、一一一七番一の土地の道路点は、本件換地処分前に、準市道を基本点(一七点)とし、同土地の西側に六尺道路が接続することによる増加点一点を加え、それぞれの道路に段差があったことにより二点減点して一六点とされたこと、換地後東側道路がなくなったことはなく、従前地とほぼ同じ位置に幅員が五メートルに拡幅されて存在していること、したがって、換地後の道路点は、五メートル道路の基本点二〇点に、東南側に四メートル道路が部分接続することによる増加点一点及び段差の存在による減点一点の加減をして二〇点の土地として評価されたことが認められ、右土地の道路点評価に問題はたい。

4  同3(三)(その他の手続の違法)について

同3(三)(1)、(3)及び(4)の各事実、並びに同(5)の事実のうち、賦課面積の変化があったことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、これを認めるに足りる証拠がない。なお、同(1)、(3)及び(4)の各事実は法に照らしても本件処分ないし本件換地処分の瑕疵とはいえないし、同(5)の事実は本件処分ないし本件換地処分と無関係な事実である。

5  以上の認定事実によれば、本件処分には、公序良俗に反する重大かつ明白な瑕疵を認めることができない。

四  結論

よって原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木航兒 裁判官 田中由子 佐々木宗啓)

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